この記事のもくじ
まえがき
今回紹介する本
『人間ってなんだ』です。
本書の概要
なんだか哲学みたいなタイトルですが、中身を見れば一個人のエピソードに基づくエッセイ集です。
著者である鴻上尚史さんは演技の演出の世界で活躍されている方ですが仕事柄人と関わらざるを得ません。なので関わっている相手の事情を考えることが常となっていたようです。
そこから生まれた「人間ってなんだ」に関するエッセイが集まったゆる〜く読める本です。
テキスト
- 異文化で人間について考える
- 立ち止まって考える
- 体を意識する
- 性の世界は奥が深い
- 才能ってなんだ
- 希望について
自分の印象に残ったエッセイ
アウシュビッツは”正義”がたどり着いた地獄
このエッセイが出た2019年11月に行ったのかはわかりませんが著者は海外の大学で講演をしに行ったそのあしでアウシュビッツを訪れたそうです。アウシュビッツといえば多くのユダヤ人が収容され、殺された場所として有名です。
ここで書かれていたことは
- アウシュビッツはヒットラーという狂人が作り上げたものではない
- ヒットラーは国民の33%の支持によって政治の表舞台に登場したのだから
ということ。確かに昔の映像を見るとヒットラーの演説に対して民衆が沸いている構図のものを目にしますが、そうなると誰が悪いかといえばヒットラーも悪いは悪いけど、そういう人を選んだ国民にあるというのは納得です。
これ、今も同じこと起こってますよね?ウクライナ侵攻に対してプーチンが悪いとよく言われます。確かに悪いですが、選挙(これも正常に行われたのという前提ですが)で選んだのは国民ですし、情報統制下とはいえプーチン大統領に対する支持率が高いのも事実。
根本的に誰が悪いかって言ったらそういう国民なり国民性なのだとするとプーチンを下ろしたところで変わらないんだろうなと思ってしまいます。
ことばがひらかれるとき
演劇のワークショップについて紹介する中で面白い一節がありました。
- 一生懸命だと、何も見えない
- よく見るためには、集中しないとだめ
一生懸命と集中って違うのか・・・。
- 一生懸命: 命がけで物事をすること。全力をあげて何かをするさま。
- 集中: 一か所に集めること。また,集まること。
著者はこれに対して「集中とはリラックス」と解釈されてます。一生懸命には少し肩肘張った印象があるとするならそれは同意です。
あとがき
自分が経験できない世界に身を置く人の話は面白いですね。本書の場合だと「演劇・演技の世界ってこういうのが”普通”なのか」と思うわけです。
著者がいう相手の事情を考える癖、は相手が何を考えているかわかっていないと結局は想像の域を出ないわけです。こういうエッセイ本って単に面白い、楽しいという感想もありますが、「この世界の人の常識はこうなのか」を知る一助になるかも、と大袈裟にいうと感じました。
ある個人の半生を書いているような本ってあるようでなかなかないので、それならエッセイ集も選択肢に入れてもいいかなぁと思いました。