この記事のもくじ
今回紹介する本
『旅、あきらめない 高齢でも、障がいがあっても』です。
外国人旅行客の受け入れに関する制約もなくなり、いよいよ旅行業界が再び活発になりそうな流れになっています。そろそろ自分も旅行を、と考えている人もいるのではないでしょうか?
ちなみに自分は宮城と長崎に行けたので最近は旅行熱が落ち着き気味です。行きたいところ自体はいくつもありますけど、時間とお金とやる気のバランスの問題です。
旅とは何か。まえがきではこのように書かれています。
- 心を成長させてくれる
- 人生そのものが旅
- 人生の栄養剤
- ・・・
自分も全面的に同意いたします。全ての人がどんどん旅をしてほしいですね、というかどこかに定住する暮らし方というのは人間の本質からは外れているのではないかとすら思うこともあります。
さて、旅行というと電車やバス、飛行機に乗って観光名所を訪れたり有名な飲食店に行ったり、はたまたのんびり街歩きをしたり・・・こんな行動をとりますが、何がしかのハンディキャップがあると否が応でも躊躇されると思います。
視覚、聴覚、その他四肢の問題や吃音なんかもそうでしょうか。目的地がこれらに対応してくれるようなハード・ソフト面の整備をしてくれているかどうかも問題ではあるのですが、何より本人が行きたいと思わないことには話が始まりません。
本書は実際に障害や病気を抱えていた人が旅行にいって人生好転した!というエピソードを紹介しているもので「自分も行こうかな」と思える後押しになる本です。著者の本業は医師ですが、その傍らバリアフリーの旅行を企画したりチョルノービリ(チェルノブイリが一般的かと思いますが、昨今の事情を踏まえてウクライナ語ベースで書いてます)原発事故への支援活動をするなど社会運動を積極的にされています。
- 生きていることを喜べる旅
- 旅をはばむバリア
- 支えられたり支えたり
- 思い出づくり
国ではどんな支援をしているのか調べてみた
本書の内容は上記のとおりなので、具体的なエピソードは紹介しなくても良いかなと思い、ここでは国土交通省の資料から国としては何かしらのハンデを抱えた人にも旅行をしてもらえるために何をしているのか、調べてみました。
今回読んだのは2017年3月のユニバーサルツーリズムに対応した観光案内の実践方策です。ここから内容かいつまんでいきます。
この資料を読んでわかること
次の通りです。
- 日本国内における対象者は障害者だけでなく高齢者、乳幼児も含めて日本全体の1/3以上
- 全国的には取り組み事例が少ないことから、今やれば他地域との差別化を図れる
- 先行事例としては三重県の伊勢志摩でバリアフリーツアーの相談窓口があり、窓口設置以降で訪問者が12倍にもなっている
- バリアフリーツアーの相談窓口は全国様々にあるが、そもそも都道府県単位でなかったり、あっても地域が限られるといった問題がある
- 方策としては既存の観光案内所でもバリアフリーツアーの対応が少しでもできるような連携が望まれる(実施事例はいくつか紹介されています)
- 基本的な取り組みステップは①当事者のことを知り、地域の状況を知り、観光案内に活かす3ステップ
現状を知り、問題を見つけて行動を決める。どんな仕事でも活動でも基本的な進め方ですね。
SDGsの観点で考えると事情は複雑かも
こんなニュース、みたことありますか?障害者を支援する団体からすると「車椅子の人でも差別なく天守の一番上まで行けるように整備しろ!」と主張されて、名古屋市側は「文化財としての価値を考えたらエレベーターをつけるのはちょっと・・・」となってる話です。※ニュアンスとしてそう、ということですのでご容赦ください。
これ、別に名古屋城に限った話ではなくて自分もいくつか旅行をした中で「車椅子の方には申し訳ありませんが、ここまでしかご覧いただけません。何卒ご了承ください」みたいな掲示がされている観光スポットを見かけたことは何回もあります。
今回の資料が出た頃はまだSDGsなんて口うるさく言われていなかった頃ですが、今となると「どんな人でも分け隔てなく情報であったり、任意の場所へアクセスできるようにすべきだ」という意見が出てきてもおかしくはありません。
個人的にはバリアフリーツアー、非常に興味がありまして、単に社会的責任を果たすためというよりはビジネスという観点で考えてもやった方がいいと思ってます。それだけお客さん(パイ)を広げられるわけですし、そのために必要な投資といっても
- 点字ブロックを設置する
- 音声案内してくれるプレーヤーを用意する(別に障害あるなし関係なく使われてますよね)
- 階段が急なところには休憩用の椅子を作ったりスロープを設置する
てな感じで大した費用もかかりませんし。ただ、厄介なのは復元されたものとかならまだしも、大昔から建築当時の姿で残っているような文化財や観光スポットの場合です。これらって当時の形をとどめていることに価値があるから国宝とか重要文化財として認められているものもあるわけでして、そこに対して「みんなが行けるようにするために一回解体したり手を加えたりします」と言ったら現実問題NGとなる気がします。
少し話が変わってしまいますが、たとえば富士山を車椅子の人が登れるように登山口から山頂までスロープや安全な手すりを設置しますといったらどうでしょう。受けは良さそうですが、「それはちょっと違うでしょ」という意見が出てくると思いませんか?
全ての観光スポットが公的な要素を持っているかと言ったらそうではありませんし、「ユニバーサルじゃないと批判されたとしても自分達はこのスポットを元の状態で維持することに専念します」という考え方も否定されてはいけないと思います。
旅行以前にまずは気軽に外出できる環境整備の方が先だと思う
今回のテーマは旅行ですが、旅行に行く以前に日常生活のところで不便さであったり「外出はちょっと・・・」と思わせるような因子を排除する方が自分は重要だと思います。たとえば点字ブロックとか専用の歩行者信号のボタンのやつが街中で見かけられるわかりやすい例ですし、公共交通機関における低床車両とかエレベーター、エスカレーターなんかもそうです。
近距離移動すら成立しない社会インフラで旅行みたいな遠距離から来た人のことを先に考えた施策ってのは順番としてどうなんだろうと疑問に思うところです。
これだったら市町村単位で実施できるレベルですし、まちづくりにおけるユニバーサルデザインの普及ということで意義がありますから多数の住民の賛同も得られることでしょう。これの積み重ねが現実として可能な範囲での旅行業界におけるバリアフリー化の推進にも繋がるように思います。