【2022年読書レビュー】「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ

ブックレビュー

この記事では直接的に書籍の内容に触れることはできるだけ避けたうえで、読んでその内容について思ったことなどなど紹介します。

今回紹介する本

『「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ』です。


いまどこかしらでお勤めの方々、メールで馬鹿の一つ覚えみたいに使ってませんか?

「連絡させていただきます」

「事前に周知をさせていただきたく」


あなた自身が使ってなくても、公共の場で定型文句のように使われている「させていただく」

  • 終電を繰り上げさせていただきます。
  • 緊急事態宣言発出中につき、閉館させていただきます。

不思議に思ったことはないでしょうか?

自分は人の話す内容に一喜一憂することはないのですが割とどうでもいいとこ、具体的には

  • 言い切らない言葉➡︎〇〇なんですけど。(「けど」なによ!って思ってしまう)
  • 敬語オンパレード➡︎〇〇させていただきたく、宜しくお願い申し上げます(もっと簡潔に言うてくれ!)

こういうとこにケチというか引っ掛かりを覚える人間でして、この「させていただく」に特化した本って面白そうだなと純粋に思ったのが購入の動機です。

本書の目的

著者は「させていただく警察」を拝命しているわけではなく

  • なぜ人々が「させていただく」という表現を好んで使っているのか
  • どういった流れから現在の使い方としての「させていただく」が流行るようになったのか

これらを解き明かすことにあります。こういっているくらいなので、「させていただく」は元々そんなに使われていなかったことや現在と昔ではその意味合いが違うことが本書を読む前から推定できます。

本書の構成

核論に入る前に現在の敬語表現が各々どんな意味合いや狙いを持って使われているのかを整理します。

その上で「させていただく」が絡む言語表現の体系新旧の「させていただく」の比較に進んでいきます。

本書の構成
  • 現在の敬語表現
  • 敬語の体系変化と「させていただく」のブーム到来
  • 敬語に関する実態調査
  • 新旧の「させていただく」に役割変化
  • 総括

昔と今の「させていただく」

調査方法

本書の4章の内容にあたります。

ここでは国立国語研究所が構築した「コーパス」「青空文庫」を使ってどんな形式での表現がよく使われているかを比較することで「させていただく」が好まれるようになった理由を解き明かしていきます。

コーパスとは・・・
  • 電子テキストをたくさん集めたデータセット
青空文庫とは・・・
  • インターネット上で無料公開されている電子図書館
  • 著者の没後50年が経過している近現代の文学テキストを集計

新しい文章としてコーパス、古い文書として青空文庫を比較してわかった「させていただく」に関する変化点は以下の通りです。

お断り
この調査では似たような言葉である「させてもらう」「させてくれる」「させてくださる」についても対象としていますがここでは割愛しています。
  • 使用頻度:有意に増加
  • 「いただく」の前の言葉:能動的コミュニケーション動詞が増加
  • 「いただく」の後の言葉:言い切りが増加

使用頻度

これは特記事項なしですね。そもそも増えてるのが前提で話を進めていますから。

「いただく」の前の言葉

本書では動詞を7つのカテゴリーに分けて評価をしています。その結果増えたのが「能動的コミュニケーション」に関するものです。

能動的コミュニケーションってなによって方のために事例を示すとこういうのです。

  • 話す
  • 質問する
  • 説明する

反対に人に働きかける動詞には使われなくなったようです。これは動詞自体が敬語になっている(例:伺う、お邪魔する)ものもあるので、そこに「いただく」を使うのは二重敬語を懸念したという指摘がなされています。

「いただく」の後の言葉

同士と同じように後ろにつく言葉もカテゴリー分けして評価されました。その結果増えていたのは言い切り型です。他のも併せて具体例を示しておきます。

  • 言い切り:させていただきます
  • 言い切らない:させていただきたいんですけど
  • 願望:させていただきたい

個人的には言い切らない形が大っ嫌いなのでいい傾向だなぁと読み取っていたのですが著者は「双方向的なコミュニケーションから一方向のコミュニケーションに変化」したと捉えています。

これはケースバイケースの話とはいえ、交渉、調整が絡むようなところで言い切ってしまうと「交渉の余地はありませんよ」って言ってることになるので、その時には不適当だというのは同意です。

言葉は無意識に使うからこそ気をつけたい

この本でわかること

  1. 日本における敬語表現の変化
  2. 「させていただく」が好んで使われるようになった背景

言葉って深く意味を考えて使うもんでもないので、知らず知らずのうちにニュアンスが変わっていることがあります。

本書は「させていただく」に特化した本ですが、させていただくという言葉はいつでもどこでも使える便利な表現であるだけにお世話になっている人も多いことでしょう。

ここで立ち止まって意味をもう一度知っておく、反芻してみるのは相手に正しく自分の意見・姿勢を伝えるいい手段です。

本書の内容に関連して思ったこと

基本は上述の通りです。

自分もメールで馬鹿みたいに使っていた時期があるのですが本書を読む以前に「こんなにいただくばっかり使うってなんか不自然だな」と思ってなるだけシンプルな表現にするように試みています。

あんまり考慮もしないで使いまくると口癖というか定型文句になってしまう恐れもあるので言葉遣いには気をつけねばならんなと思いました。幸い、自分は「させていただく」のインフレに気付けた側であると信じてます。

この本のおすすめ度と読むのがおすすめな人

おすすめ度は10点満点中9点です。

この本は次のような方におすすめです。国語自体は自分は好きじゃないのですが、本書は調査とかアンケートがあって順を追って理解が進むようになっていたので期待値以上の学びが得られました。

興味のある方は是非読んでみてください。

  • 言葉のチョイスに普段から気を遣っている
  • ちゃんと意味を持たせた言葉遣いをできるようになりたい

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