【2022年読書レビュー】鉄道ビジネスから世界を読む

今回紹介する本

『鉄道ビジネスから世界を読む』です。


鉄道ビジネス、聞いたことがあるようなないような・・・。日本にはJRをはじめ数々の鉄道事業者がいて列車を運行してくれています。自分は電車移動が好きなので足元の自動車ありきの社会にしといて今更廃線議論がどうとかいうてるのはただただ憤るばかりだ、という旨の話は何度も申し上げてきました。

さて、ここでいう鉄道ビジネスというのは海外への輸出を主に指しています。もちろんレールは輸出できませんから運行システムとか鉄道車両の販売ということになります。

国交省の海外展開戦略(鉄道)でも国内における需要は低下していくことを念頭に海外の高速鉄道プロジェクトに国として積極的にセールス活動を行なっていくことが書かれています。最近も日経からこんなニュースが出てましたね。

日本の鉄道技術は定時運行率や高速走行における乗り心地など海外から高く評価される対象によくあがりますが、海外でも簡単に売れるかというと別問題。どうしても日本での仕組みを実現するにはお金がかかる、それに対して中国は時々えぐい事故を起こしていますが1にも2にも価格で勝負といったところで競争にさらされている環境にあります。よって日本なら「いい」とされる基準が通用せずに海外案件が他国に掻っ攫われてしまうことが本書でも強調されています。

本書ではそうした状況下で生き残るための戦略を考察していきます。

本書の目次
  • 鉄道ビジネスがデザインする「権力」と「国家」
  • 中国の融資の罠とグローバル・スタンダード
  • 欧米のスタンダードか中国のやり方かの二元論を超える
  • 変化と流動の10代のビジネスチャンス
  • 会社を辞めて見つけた自分のスタンダード

これからの鉄道のありかた

速達化の限界

これまでの日本の鉄道技術は何を目指してきたか、それは徹底した速達化だと言えるでしょう。新幹線網の拡大はわかりやすい例ですが、在来線においても複線化や短絡ルートの建設、急なカーブでも高速で走行できる車両開発も含まれます。

とはいえ速達化を追求するにも限界はあります。同じ速達化でも3時間が2時間になるのと2時間が1時間になるのではインパクトが異なるようにどこかで「これ以上短くなったとて」になります。本書ではカップラーメンの待ち時間に例えているのが面白いポイントです。

実際、東海道新幹線の最新車両はN700Sと呼ばれる型式ですが、JR東海曰くこれで車両開発は一区切りだそうです。

車内環境の改善

速達化に限度が見えてきたらどうするか?ときて既に取り組まれているのが環境改善です。

ひと昔ではあり得なかった全席コンセントや車内Wi-Fiの導入、ビジネスパーソン専用車両、コンパートメント席など今では当たり前に思っていますが地味〜にありがたいサービスですよね。しかもこれ理由で値上げしてるわけじゃないし。

次はどうするか?

実は明確に鉄道を意識したことは書かれていません。ただ「時間に注目する」とだけです。

いや、時間って結局速達化やろ・・・と思いたくもなりますが筆者が言いたいのはそういうことではなくて電車による移動時間をどう過ごしてもらうかに注力するという意味で「時間」を明示されていると自分は思っています。

上記の通り新幹線であれば通話も可能なビジネスパーソン専用車両が導入されていますが、これをもっと拡充させて

  • 車両の中で打ち合わせができる

とか

  • ゆっくり腰を据えて作業ができる座席レイアウトに変更する(まるでオフィスにいるような)

などです。少なくとも東海道新幹線はほとんどがビジネス客の利用なので、このやり方でもいいのかなと思います。たくさんの人を早く運ぶことから(できれば)たくさんの人に快適に移動してもらうことにシフトするのは新幹線にしろ在来線にしろ進んでいくことでしょう。

あとがき

海外と日本で鉄道に期待するものが違ったら、そりゃ何でもかんでも買ってもらえるわけじゃないですよね。日本ではやたらと定時運行が求められますが(そのくせ値上げとかには反対するお客さん)、海外でそのニーズがあるかといったら「鉄道って遅れるもんだよね」って国もあるでしょうし。

その意味では無理して海外展開しなくてもいいんじゃないかと思います。日本の鉄道を評価してくれている人はいるわけですから、そういう人に日本へ来てもらって鉄道に乗ってもらう方が収益面ではいいのかなと思ったりもします。

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