この記事のもくじ
この記事では直接的に書籍の内容に触れることはできるだけ避けたうえで、読んでその内容について思ったことなどなど紹介します。
今回紹介する本
『2050年の地球を予測する 科学でわかる環境の未来』です。
2050年、何の年かわかりますか?そう、日本がカーボンニュートラル(排出する二酸化炭素と吸収する二酸化炭素の量がイコールの状態)の達成期限に定めている年です。
わざわざ言われなくたって◯年に一度と呼ばれる気象が毎年起こって「全然◯年に一度じゃないじゃん!」状態になっていることは周知の事実です。
このような背景の中で改めて現状を知り、予測される未来を知っておこうと思って自分は読みました。
本書の概要
本書を書いた狙い、まえがきでは以下のように触れています。
- 学んだ内容はなんらかのかたちで、自分の行動に反映される
- 環境問題を起こしているのは元をたどればわれわれ一般市民
- だからこそ、環境科学を現代人の必修科目としてお薦め
『環境問題を起こしているのは元をたどればわれわれ一般市民』
これはまえがきにして非常に大事な意味を持つフレーズです。ここに気づけたならすでに本書を買った価値があったと言ってもいいと思います。
本書の構成
以下の通りです。
- 環境問題についての意見
- 急性の公害と遅延性の公害
- 環境における生き物ー楽観と悲観
- 地球温暖化が起こす未来ー地球温暖化は「最小限に」止めるもの
- 地球温暖化という未来への対策のあり方
- 環境問題への個々人の心構えのあり方
環境問題はグローバル
環境問題と言っても色々あります。地球温暖化はもちろんその一つですし公害もそのひとつです。
これらを分類するときにすぐに影響が出るか時間が経ってから影響が出るか、この2択に分けることができます。
例えば昔の日本で起こった四日市ぜんそくやイタイイタイ病といった公害問題は原因となる事象があってからすぐに結果として現れた一例です。この場合はすぐに原因と紐づけられることで対策も進んできた経緯があります。
その反対、すぐに影響が出ないものは厄介です。5年、10年などと原因になっているものが継続した結果初めて表面化するために気づいたときには手遅れだったり、影響範囲が広範になってしまったり、対策を打ち始めても効果が見えてくるまでに時間を要してしまったり、さまざま困難を伴います。これに当てはまるものとして本書では以下の事例を挙げています。
- フロンガス
- 酸性雨
- 海洋プラスチックごみ
- 地球温暖化
フロンガス
元々フロンガスはクーラーや機械の冷却装置の冷媒として使われていました。フロンガスは人にとっては無味無臭で無害なので使っている最中は環境に悪いなんて思いもしないわけです。
が、1980年代になって影響が出始めます。オゾンホールです。オゾンがフロンガスと反応して分解されてしまうのです(式は割愛しますがフロンガスはオゾンと連鎖的に反応するので一旦反応すると大量に分解されてしまうのも問題)。こうなると地上に降り注ぐ紫外線が増加し、皮膚がんや白内障の発生率が高まってしまいます。
これに気づいた世界では対策を始めます。現在の日本ではフロン排出抑制法が施行されており、フロンガスは使わない、すでにフロンガスを使っている設備では冷媒の置き換え、使っていた設備を廃棄するときにフロンガスが漏洩しないように処置するなどです。
こんな対策をしてるんだからさぞ状況は回復しているのかと思いきや気象庁 南極オゾンホールの概況(2021年)で紹介されているオゾンホールの状況は以下のようなものです。
南極は依然として穴がポッカリ開いています。そして残念ながらオゾン層が元に戻るのは
21世紀末=2200年ごろ
とされています。つまり今生きている人のほとんどはオゾン層が復活するのを見届けぬまま死ぬことになります。ドラえもんが立ち会ってくれるのでしょうか、というのは冗談ですがたかだか数十年やらかしたことが100年スパンで影響している、というわかりやすい例と言えます。
これについては環境省のHPに参考資料がいくつかあるのでぜひそちらもご覧ください。
環境省 フロン排出抑制法の概要、オゾン層を守ろう-地球温暖化防止のためにも、フロンの放出を抑えよう-
酸性雨
酸性雨の原因は工場の排ガスに含まれている窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)で、森林破壊や土壌、水質に悪影響を及ぼします。
日本国内で有名なのは大気汚染防止法による上記物質の排出規制ですが、日本だけ守ってればいいかというと当然そんなことはありませんよね。大気は国境を超えてくるので他国がザルな管理をしていれば日本も被害を被るわけです。
参照:環境省 酸性雨の防止に関する国際的枠組みの下での取組と新たな国際的枠組みづくり
海洋プラスチックごみ
近年トレンドな問題といえばこれではないでしょうか?プラスチック軽いし安いというメリットからペットボトルやら収納容器やら上げればキリがないほど身の回りでは使われています。そしてプラスチック製品を使っている分にはフロンガスと同様、人間には悪さをしていません。
使っている分には、です。
「海洋プラスチック」という本を読んだことがあるのですが、その中でプラスチックごみの問題を次のように指摘していました。
- 紫外線を受けて小さくはなるが分解できない
- その結果、水質汚染や餌と勘違いして魚が飲み込んでしまう(人間は食べても無害だけど、だからOKではない)
- 管理していない国から排出されたごみが巡り巡って漂流してくる(酸性雨と同じ話)
こういう話になると「でもリサイクルしてるでしょ!」と思われる方もいるかもしれません。
実態はどうかというと一般社団法人プラスチック循環利用協会が公表しているプラスチック再資源化フロー図」があります(下図)。プラスチックごみの大半はサーマルリサイクル、というと聞こえはいいですが要は普通のごみと一緒で焼却処分しているだけなのです。
しかも資料を精査して貰えばわかりますがマテリアルフローと言っているうちで国内消費するのは20%くらいです。悪くいうとプラスチックごみを海外に押し付けているといえます。
今後さらに増えると言われているプラスチックごみ。すでに対策が浸透して、あとは効果や実施状況をフォローすればいいフロンガスや酸性雨問題よりも厄介といえそうです。
地球温暖化
最後はお馴染み地球温暖化です。言わずもがなって感じなのでここでは1つだけ資料を紹介しておきます。気候問題に関する国際機関としてIPCC(International Panel for Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)というのがあります。
ここで将来の地球の気温予測がなされていたので引用させてもらいます(引用元:IPCC 第 6 次評価報告書 第 1 作業部会報告書 気候変動 2021:自然科学的根拠 政策決定者向け要約(SPM) 暫定訳(2021 年 9 月 1 日版)
5つのケースでシミュレーションがなされています。定義は以下に示しています。
- SSP5-8.5 ➡︎ 2050年時点で2倍
- SSP3-7.0 ➡︎ 2100年時点で2倍
- SSP2-4.5 ➡︎ 2100年まで今のまま
- SSP1-2.6 ➡︎ 21世紀後半のどこかで実質ゼロ=カーボンニュートラル
- SSP1-1.9 ➡︎ 2050年時点で実質ゼロ=カーボンニュートラル
これで2点明確となります。日本はじめ世界各国が目標にしているのは最もハードルの高いSSP1-1.9レベルであること、そしてそれを達成しても現在よりも地球の気温は上がってしまうことです。
つまり、
- 地球温暖化を「止める」という点ではすでに手遅れ
なので「最小限に」止めるという筆者の表現はまさにその通りと言えます。
筆者のおすすめは「行動する前に考える」
環境問題はみんなの問題
自己啓発本だと「考える前に行動!」「行動力命!」です。自分も同意ですが、筆者は環境問題に関してはまず考えてほしいとアドバイスしています。
それは環境保全に関することはみんなに関わることであり、自己満足で済ませてはならないから、というものです。
自己満足してはいけない、では無いと思います。自己満足が先に来て本書でいう「車で移動しての活動」なんてしてたら本末転倒です。
そうならないように、やるからにはトータルプラスになるように動くことが大事であるということです。
だからこそ、小さなことからコツコツと
チームマイナス6%が流行っていた頃のフレーズです。いま、個人で何かするとしてもこれを意識すればいいんじゃないかなと思います。
自分の場合でいうと
- 公共交通を使う
- 食べ物はなるだけ国内産
- 無駄な電気、水は使わない
こんなもんです。大掛かりなことをしようったって個人では限界があるからです。「こんなもんでいいの」ぐらいが確実にノーリスクで環境保全につながるんじゃないでしょうか?
あとがき
何事も小さく
繰り返しですがこうです。
一通り本書を読むと、思いの外実情は厳しくアクションは早急にせねばならん!という気持ちになります。
が、焦って行動しても仕方ないので個人個人は他に足つけた取り組みを続けて、植林とかエネルギー問題みたいなのは企業や政府のお膳立てに期待するというのがいい距離感を保つ考え方かと思います。
この本を読むのがおすすめな人
この本は次のような方におすすめです。間違いなく当事者意識は高まります。
環境問題は生きている人全員に関わりますから筆者が言うように一つの常識として多数が知識を高めていけるとよいですね。
- 環境問題に関心がある
- 環境問題への向き合い方を学びたい。