この記事のもくじ
今回紹介する本
『寿命ハック 死なない細胞、老いない身体』です。
現代において絶対と言えるものを一つ挙げるなら「人は必ず死ぬこと」です。お金持ちの人も貧乏な人も、世の中で名声を上げた人でも、ローマ教皇でも歴代の天皇も死は避けられていません。だから不老不死に対する憧れは長い歴史の中でもずっと持たれていますよね。
こと日本ではどうかというと現代は生きるのにお金を切っても切り離せない、そしてそのお金に関して問題を抱えている人の方が多いこともあって「人生100年時代」というような長生きを連想させる言葉に対して必ずしもプラスのイメージが持たれていないように思います。とすると不死なんてもってのほかですが、不老の方はニーズがあるでしょう。自分も可能なら今の健康状態をなるべく維持してピンピンころりなら良いなぁと目論んでいます。
さて、そんなわけで世の中には「若返りの薬」とか「食べれば食べるほどいいスーパーフード」「断食すれば若返る」みたいなものが氾濫していますが、本当にこれらは(不死はともかく)不老に貢献してくれるのか、考えたことはあるでしょうか。
本書は世の中ですでに知られているものだけでなく知られていない若返り術についてもその妥当性や結果の信憑性について解説されています。
- 長寿の記録
- 太陽とヤシの木と長寿
- 過大評価される遺伝子
- 不老不死の弱点
- あなたを殺さないものは……
- サイズは重要か?
- イースター島の秘密
- すべてを結びつけるもの
- 高校で教わる生物学の誤り
- 不死への冒険
- ゾンビ細胞とその退治法
- 生物時計のねじを巻く
- 血液の驚異
- 微生物との闘い
- 見えるところに隠れる
- 長生きするためのデンタルフロス
- 免疫の若返り
- 楽しく飢える
- 歴史ある習慣を見直す
- カーゴカルトの栄養学
- 思索の糧 フード・オブ・ソート
- 中世の修道士から現代科学へ
- 測定できるものは管理できる
- 物質より心
巷の若返り術に対する本書の見解
がんをはじめとする数々の疾病は老化が根本原因であるとされていることもあってか、本書で登場する不老の方法の中には「これって不老のためじゃなくて病気にならないためじゃなかったっけ?」と思われることもあるかもしれません。要は病気にならないための習慣は大元を辿ると不老のための習慣だということでご理解ください。
さてさて、上述のように巷には科学的根拠の有無を問わずに「これが健康にいい!」と不特定多数に実践されていることがいくつもあります。これはあくまで一例です。
- 1日1食(もしくは1日の間のX時間以内に食事を済ませる)
- 献血
- ビーガン
- 糖質制限
- etc
こういった健康法について本書は次のような見解を出しています
抗酸化サプリ:NG
抗酸化物質というワード。すごく惹かれますよね。
本書で紹介されている研究によると抗酸化作用のあるサプリを摂った人と摂っていない人を合計23万人分調査した結果、前者の方が早死にしていたというのです。その原因は「生物を強くする=ホルミシスに役立つストレスが抗酸化作用のあるサプリを摂ることによって人体にかからなくなるから」です。多少のストレスはあったほうがいいと言いますが、これとリンクしている話かもしれません。
ちなみにホルミシスというワード。本書ではたくさん出てきます。それだけ鍵になる現象なのでしょう。
鉄分の過剰摂取:NG
これも結構やってる人いるんじゃないでしょうか?「鉄分不足になるから・・・」といって鉄分だけ摂れるサプリもあるくらいですが、人体は他のビタミンやミネラルと違って過剰な鉄分を自力で排出する仕組みがない=たくさん摂ったらそのまま残るという厄介な成分です。そしてこの鉄分がフリーラジカルの生成や感染症いつながる微生物がこのむ物質であることを踏まえて摂りすぎは良くないということです。
全く摂らないのはもちろんダメ、でも摂りすぎもダメという困りものです。本書ではここで「献血をすれば物理的に血液が抜かれるので、付随して余計な鉄分の排出も期待できる」ということで献血が推奨されていました。そうじゃなくても献血はいけるなら社会貢献として行きたいですね。自分もやってみたいですが、血圧ひっかからないかが心配で行けてません。
カロリー制限、絶食:OK
これで自分は安心しました。感覚ベースではやってる方が調子がいいとはいえ後ろ盾がある方が「自分は変なことをやってるんじゃないか」と不安にならずに済みますからね。
ただし次の追加情報はちゃんと知らなかったので参考になりました。
- カロリー制限:「やったほうがいい」レベルで具体的な良くなりしろは不明
- 絶食:一種のホルミシスとしてオートファジーの活性化に寄与。カロリー制限というよりはこっちの貢献が大きい
カロリー制限はいろんな動物で実験している中で元々の寿命が小さい動物ほど伸び代が大きいようで、人間だと効果が薄れてしまうみたいです。そして、同じカロリー制限でも食事時間の制限があるのとないのとでは前者じゃないと効果がなかったという研究結果から絶食はまぁ効くだろうというのが現状です。
相関関係≠因果関係
情報を見る上でこれが超大事です。本書の最後で触れられています。特に健康法の類は因果関係があることが大事であって相関関係があるだけでは信憑性に難ありです。
例えば、本書で紹介されているのはこんなものです。
- 相関関係:アイスクリームの売り上げと熱中症の死者数
- 因果関係の誤解:アイスクリームを食べれば食べるほど熱中症の死者数が増える、だからアイスクリームは食べない方がいい!
誰でもおかしいって思いますよね。相関関係はそうかもしれませんが、因果関係は絶対違います。どちらも因果関係でいう「果」であって、「因」は気温が高いことです。気温が高いから冷たいアイスクリームの売り上げが上がるんだし、熱中症になりやすくなるんです。
健康にまつわる話も一緒です。だからこそ過去の読書レビューでも紹介したことがありますが、その情報の出典やエビデンスレベルを踏まえた判断が求められます。本書だと「だからランダム化比較試験みたいなのが因果関係として成り立っているか有効」と紹介しています。
ちなみにオチみたいですが、本書はこういうことを言っておいて各情報の出典が書かれていません。最近の医療本、健康本だとどのジャーナルのどの著者が書いた論文かを章末とかに出しているケースが多いのですが本書は全くありませんでした。そんなこと言うなら載せとけよって思いました。